抄録
ロリス科霊長類のロコモーションは,跳躍が欠如した静かな樹上性四足歩行で特徴づけられる。歩行時に四肢にかかる反力は比較的小さいが、体の姿勢を保つために筋肉から大きな荷重が四肢骨にかかっていると指摘されている。本研究では、上腕骨と大腿骨の緻密骨量をロリス類と他の霊長類とで比較し、ロリス類の特異な運動行動と形態特徴との関係を検討した。四肢長骨の軸部の断面形状は、これらの骨にかかる圧縮や剪断などの荷重への耐性と関係があるとされている。中軸部の断面影像をmicroCT (pixcel size <0.05 mm)で撮影し,画像から断面積や断面二次モーメントなどの耐性指標値を計測した。サンプルにはロリス類4属(Loris, Arctocebus, Nycticebus, Perodicticus)とこれらと同等の体重をもつ他の霊長類(ガラゴ類、キツネザル類、広鼻猿類、オナガザル類)を用いた。ロリス類では小さなLorisと大きなPerodicticusの間で形態特徴が大きく異なり,他の2属はこれらの中間形態をとる。ロリス類4属に共通した特徴は,他の霊長類に比べると上腕が相対的に長いことと,大腿中軸部の緻密骨量が多く,かつ前後よりも内外方向の曲げに対する耐性が大きいことのみであった。Lorisの上腕骨と大腿骨は,他の霊長類に比べて軸部緻密骨量が少なく,荷重耐性が相対的に低いことが示された。このことは,静かな動きでは四肢に加わる反力が小さいという予測と一致する。一方,Perodicticusでは体サイズと骨長に対して上腕骨中軸断面係数が高く,また骨長に対して大腿骨断面係数が大きいので,他の霊長類と比べて荷重耐性が相対的に高い形態をしている。ロリス科では,体サイズの増加にしたがい,反力以外から生み出される荷重が相対的に増加している可能性が示唆された。