抄録
ニホンザル筋骨格系の形態や構造が,歩行機能にどのように関係しているかを明らかにするためには,筋骨格系各要素の歩行中の動態を詳細に理解する必要がある。しかし,骨や筋の3次元的な振る舞いを実計測することは非常に困難であるため,その詳細はほとんど明らかになっていない。そこで本研究では,解剖学的に精密な身体モデルと動画像データに基づいて,ニホンザル歩行運動中における筋骨格構造の3次元動態を推定し,可視化する手法を開発した。
トレッドミル上を歩行するニホンザルの身体運動を,計4台のデジタルビデオカメラで同期撮影し,各関節に貼付した計16標点の3次元座標の時間変化を求めた。また,X線CTにより取得した解剖学的情報に基づき,筋骨格系の運動学的な拘束を再現したニホンザルの3次元身体モデルを構築した。骨格系は計20節からなる直鎖リンク計として表現した。筋系は,歩行運動に関与する片側約80筋を考慮し,起始点から停止点までを結ぶ線分としてモデル化した。構築した身体筋骨格モデルを,標点運動の時系列データにマッチングしてやれば,歩行中の筋骨格系の動態を推定することが可能となる。具体的には,計測した標点位置とモデル上の標点位置の誤差,および各関節の可動域中心からの偏差を最小化するモデルの姿勢(関節角度)を計算することにより推定を行った。
解剖学的に精密な筋骨格モデルと,モデルマッチング技法を用いた本手法により,直接計測が困難なニホンザル筋骨格系の動態を再現することが可能となった。標点の位置情報は,モデルの自由度を規定するには不十分であるが,筋骨格構造に内在する運動学的な拘束を利用することにより,解剖学的に無理のない自然な筋骨格運動を推定することができている。本手法は,形態と運動機能の関係,さらには歩行メカニズムを明らかにする上で有効なツールとなると考えられる。