抄録
(目的)ニホンザルは、毛づくろい中にシラミ卵を毛からつまみ上げ食べる。昨年の学会発表で、シラミ卵を体毛からはずす行動の発達に、毛づくろい相手の行動変化が影響しているとわかった。そこで、シラミ卵を体毛からはずす行動の周辺の行動である、相手の毛をかき分ける行動についても、毛づくろい相手の行動変化が関連しているかを調査した。
(方法)1990年から2007年まで、長野県志賀高原地獄谷野猿公苑に餌付けされているニホンザル志賀A-1群を対象に横断的調査(毛づくろい行動をビデオ撮影)を行った。毛に沿ってシラミ卵を引き抜く(つまみ上げる)行動の見られた個体(月齢8ヶ月の当歳児から22歳まで)について、その前後に見られる相手の毛をかき分ける行動と、相手の毛づくろい部位(体毛を除く)の行動変化(動き出す、呼吸のリズムが乱れる)の関連を調べた。具体的には、毛づくろいをしている個体の手が動いて、相手の体に触ってから、相手の体から離れるか・手が止まるまでの間に、相手の体(体毛を除く)が動くのかビデオ解析した。お互いが毛づくろいし合う相互毛づくろい行動は、他の要因の関連が疑われるので解析からは取り除いた。
(結果)毛づくろいで相手の体をかき分けるときに、相手の行動が変化する(毛づくろい部位が動くなど)割合は、年齢が上昇するにつれて下降した(Kendall τ = -0.443, N =22, P < 0.01)。
(考察)シラミ卵を直接はずす行動以外でも、相手から反応を受けることで、相手に不快な行動(毛のかき分け方)が排除されていくと考えられる。その結果、相手の毛をかき分けても、相手の体が動かなくなると思われる。昨年の結果と合わせると、毛づくろい行動全体で、ニホンザルは、相手に行動変化を起こさせないように細心の注意を払っているようである。