抄録
野生チンパンジーの生息密度推定には、チンパンジーのベッドの崩壊速度が指標のひとつとして用いられる。しかし、性・年齢層を問わずすべての個体が同じ強度のベッドを作るかあきらかでない。本研究は、ベッドの強度が性・年齢層でどのように異なるか、ベッドの構造を調べた。調査は2006年10月から2007年2月まで、タンザニア、マハレ山塊国立公園でおこなった。ベッド(N=30、うちベッド作成個体が識別されたものN=25)に積み重なった枝を上から順に、枝の長さと状態(切り取られている、折られている、ゆるやかに曲げられている)を調べた。ベッドを上中下の3層に分け分析すると、下層では約100cmの長い枝が用いられ、中層では77cm、上層では55cmと積み重ねるにしたがい枝を短く用いていた。また、下層では枝をゆるやかに曲げたり(33%)折ったり(50%)することが多く、切り取り(16%)は少なかったが、上層では切り取りが多かった(68%)。チンパンジーはベッドの基礎となる下層では長い枝を折り曲げて土台を作り、その上に短い枝を切り取り載せることでマット様の層を作り出していたと考えられる。また、性・年齢層に分けてみると、ベッド1つに用いる枝数は、成熟オスで平均約40本だったのに対し、成熟メス、未成熟のオス、メスでは約30本と少なかった。また、成熟オスのベッドでは折られて使われた枝が多かった。また低年齢のコドモ(N=3)では、切り取った枝が多く、50%以上を占めた。成熟オスは多くの枝を折ることで土台を補強し、重い体重を支えられるベッドを作るのだろう。またコドモは枝を折る力が弱く、小枝を切り取り用いたと考えられる。またこのことから、成熟オスのベッドの崩壊速度は他の性・年齢層のものより遅く、コドモではより速いと予想される。本研究は、環境省地球環境研究総合推進費(F-061)を用いておこなわれた。