抄録
霊長類の行進の順序については、ヒヒ類やマカク類などで調べられているが、原猿類についてはほとんど報告がない。ワオキツネザルはキツネザル類の中では地上を移動することが多い種で、尾を立てたまま整然と移動する。採食地へ向かって地上を行進してゆくワオキツネザルT1群を対象に、個体毎の行進の順序を計17回調べた。調査期間は1998年9月3日から11月26日であった。10月16日まではT1群の構成はオトナメス(3歳以上)8頭、ワカモノメス(2歳)1頭、コドモメス(1歳)1頭、オトナオス5頭、ワカモノオス1頭、コドモオス3頭の計19頭であったが、その後オトナオス1頭が移出したため18頭になった。9月から10月に計4頭のアカンボウが生まれたが、これらは対象から省いている。T1群の場合、平均値でみて行進の先頭であったのは3歳のオトナメス(HIT90195♀、5位)で、2番目がその母 (HIT901♀、2位) であった。クラスター分析をおこなったところ、上記の2頭に祖母 (HIT、1位) とおば(HIT95♀、4位)が加わった4頭で一つのクラスターを形成しており、血縁による結びつきが認められた。このように、ワオキツネザルT1群ではオトナメスたちが行進の先頭に立つ傾向があったが、やはり地上を移動するマカク類等と比較すると、大きな違いがある。例えば、1963年にインド・ダルワールで観察したボンネットザルE群では、7回の観察のうち先頭に立ったのは1♂(社長)が5回、2♂(専務)が2回と高順位のオトナオスたちであった。行進の最先頭は食物資源の選択や確保に優先権をもつが、捕食や他群との遭遇などのリスクが高いと考えられる。ワオキツネザルの場合、行進の順序にメスの優位性(オスより優位)が反映しているようであり、マカク類などとは違う行進パターンをとっているのであろう。