抄録
[目的]テナガザル科の分類はDNAの塩基配列情報などにより、近年、修正が行なわれている。特に染色体数の異なる4つのグループの塩基配列の違いが、HomoとPanの違いに匹敵することがミトコンドリアDNAのいくつかの領域において明らかとなっている。本研究では新たにSymphalangus syndactylusのミトコンドリア全ゲノム配列を決定し、分子時計の一定性を仮定しないベイズ法を用いて、Hylobates(2n=44)とSymphalangus(2n=50)の分岐年代を明らかにすることを目的とした。
[方法]核内偽遺伝子の誤読を排すため、ミトコンドリアDNAを大きく2領域に分けるプライマーセットでPCRを行い、このPCR産物を鋳型としてシークエンシングを行なって塩基配列を決定した。新世界ザル(アウトグループ)、旧世界ザル、類人猿の9種1亜種のミトコンドリアゲノム塩基配列について系統樹を推定し、得られた系統樹を用いてベイズ法による分岐年代推定を行なった。
[結果]16,515 bpのミトコンドリアゲノム塩基配列が決定された。HomoとPanの分岐を600万年前から700万年前とする仮定の下では、HylobatesとSymphalangusの分岐は660万年前(540万年前から790万年前:95%信頼区間)の後期中新世に生じたことが推定された。
[考察]HylobatesとSymphalangusの分岐年代はHomoとPanの分岐年代と近いことから、分岐年代の点からは2つのグループが属に相当することが確認された。また、これまでの研究ではテナガザルの4グループの系統関係については一致した結果が得られておらず、非常に短期間に分岐したと考えられている。そのため、今回の解析には用いられていないグループも含め、染色体数の異なる4つのグループは各々が属に相当する分類群であると考えられる。