抄録
天王寺動物園で起こったチンパンジーのオスとメスのリーダー争いについて報告する。チンパンジーの群れはオスが群れを統率し、通常、メスがリーダーとなることはない。しかし、飼育下でオスが若い場合、ごくまれにメスがリーダーになるケースも見られる。天王寺動物園で飼育されているチンパンジーは長年メスが群れを統率していたが、若かったオスが成長するにつれて両者が群れのリーダーの座をめぐって争うようになった。
チンパンジーのオスのリーダー争いにおいて敵対関係にある個体同士が緊張を緩和する目的で通常より頻繁に毛づくろいをすることがフランス・ドゥバールによって報告されている。しかし、メスはオスとは違った感覚を持っていると考えられており、この法則がメスにも当てはまるのか今のところはっきりしない。
そこで、天王寺動物園において2006年2月から2008年4月まで5分間隔での瞬間サンプリング法で全個体の行動を記録し、その中から争いのあるメスとオスの間で毛づくろいがおこった頻度と毛づくろいの種類を調べた。またチンパンジーの間で緊張が高まると予想される給餌を2008年4月に数日間停止し、給餌が行なわれている日と給餌が行なわれていない日で毛づくろいの発生頻度に違いが見られるのか比較を行なった。
その結果、通常と同じ給餌条件では栄養価の高いサトウキビの給餌前と夕方の収容前に高い頻度での毛づくろいが見られた。しかし、給餌を停止すると収容前には高い頻度で毛づくろいが見られたものの、サトウキビの給餌前と同時刻になっても毛づくろいはほとんど見られなくなった。
オス同士の群れでは給餌が行なわれていなくても高い頻度で毛づくろいが行なわれたという報告があることから、メスは食物の獲得という目的では緊張を感じるが、日常生活の社会的な要因ではオスほどに緊張を感じていないと示唆された。