抄録
(目的)食物分配行動はヒト特有の行動ではなく、動物界にも広く見られる行動である(西田、2001)。例えば、チンパンジーでは、肉を分け与えるといった事例や、ヤシの実を分配するといった事例が報告されている。その一方で、単独性の強いオランウータンは、その生態的な要因のために、食物分配の研究が非常に少ない。我々は、給餌を受けている半野生個体群における食物分配について、興味深い事例を観察したので報告する。
(方法)ボルネオ島マレーシア領サバ州のセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターにおいて、2008年2月に2日間の直接観察を行った。1日2回ある給餌時間(10時・15時)の内、15時からの2時間を観察時間とし、給餌台に集まってきたオランウータンの行動を、行動サンプリングによって記録した。記録方法は、ビデオおよび直接観察による連続記録で行い、食物分配の持続時間や頻度を測定した。
(結果)2頭のワカメス(それぞれ12歳と11歳)が、1頭のオトナオス(16歳)に対して口移しでバナナを与える場面が観察された。自分の口が相手の口に触れてから離れるまでを、1回とカウントした時に、12歳のメスは少なくとも7回、11歳のメスは10回、食物分配を行った。1回当りの持続時間は、およそ1~2秒で、最長5秒であった。またその生起間隔は短く、連続的に行われることが多かった。
(考察)今回観察された食物分配行動は、野生下のオランウータンのそれと比較すると、以下の3点(1)非血縁個体間のやりとりであること、(2)受給側による要求行動が少ないこと、(3)供給側の自発的な分配であること、において特徴的である。本発表では、これに、飼育下での事例を加え、オランウータンにおける食物分配の特徴を考察する。