抄録
カテゴリ認知とは対象を任意の基準にもとづいて分類する能力のことであり,ヒトにおいて特に発達している機能の一つである。比較認知科学の立場から,これまでヒトに最も近縁なチンパンジーにおいてもカテゴリ認知が可能であることが示されてきた。一方ヒトやチンパンジーと近縁なオランウータンを対象とした検討は少なく,カテゴリ認知の研究もオペラント条件付けを用いたものに限られているため,判断が学習の結果である可能性も否定できない。そこで本研究では,オランウータンのカテゴリ認知について生体が本来持つ嗜好をより反映しやすい選好注視法を用いて検討した。対象は多摩動物公園にて飼育されているオランウータン1個体(推定53歳のメス,ジプシー)とした。個体の寝部屋の前にノートパソコンを設置し,動物の写真8枚(ラクダ・ウマ・サイ・ゾウ・ウシ・ヤギ・イヌ・ネコ)と人工物の写真8枚(イス・テーブル・ベンチ・ベッド・クルマ1・クルマ2・クルマ3・トラック)をそれぞれ1枚ずつ15秒間呈示した。個体の注視反応の様子はノートパソコンの画面下に取り付けられたCCDカメラによって記録し,各刺激に対する注視時間を計測した。その結果,動物の写真を人工物の写真よりも有意に長く注視していたことが明らかになった。訓練を伴わない選好注視法において動物と人工物に対する注視時間に有意差が示されたことから,オランウータンが自発的にもカテゴリ認知を行っている可能性が示唆された。