抄録
本研究ではヤクシマザルを対象に定点調査を行い,単独で遊動する雄個体の密度を初めて明らかにした。
ニホンザルの雄個体は群れ,雄グループ,単独,と帰属対象を繰り返し変化させるという特殊な生活史形態を持つ。ニホンザル研究の多くは群れの観察によるため,これらのステージの中で単独個体に関する知見は不足している。
今回,ブロック分割定点調査法によって得られたデータから単独で遊動する雄個体の密度を算出し,その密度に影響する要素を検証した。調査地は屋久島西部の海岸部から標高1300 m付近までで,分析には1989年以降毎夏行われているヤクシマザル調査隊が集積したデータの内1993,1994年(海岸部),2000~2008年(上部)のものと,2008年秋季(上部)に行った調査によるものを用いた。
いずれの場合も調査地を500 m四方のブロックに分割し,各ブロックに配置された調査員が目視による観察を行った。調査時間は1993,1994: 1261h, 2000~2008: 10061h, 2008秋: 331hであった。
データが十分量蓄積された上部について単独個体の密度を求めたところ,1.4頭/km2であった。植生別では天然更新林で最も密度が高く,人工林で最も低かった。これは植生による食物量の多寡と符合する。一方で集団密度とは相関がなかった。
また秋季における単独個体発見頻度は夏季に比べて低い傾向にあった。以上から単独で遊動する雄個体は,非交尾期には群れの分布よりも食物を重視して遊動し,交尾期には群れに追従する可能性が示唆された。
標高による差について,上部では海岸部の5.3倍の頻度で単独個体が観察されており,上部における単独個体の密度は非常に高いと考えられる。