抄録
ニホンザルは射精に至るまでに複数回マウンティング(以下,MT)を繰り返すマルチMT種とみなされている。この射精に至るまでの一連のMTをMTシリーズと呼ぶが,その時間長,MT回数,MT間の時間長,ひいてはスラストの回数は様々である。本発表では,ニホンザルにみられる交尾パタンの地域間変異を交尾戦術という視点から眺めてみる。
調査対象としたのは鹿児島県屋久島西部低地林のE群と宮城県金華山島のA群。前者については2005年9月9日から12月19日の間に,第1位雄,および7頭のオトナ雌中発情の見られた5頭を追跡対象とし,1日最低6時間の同時3個体追跡を行い,MTの相手と生起時刻,スラスト回数,射精の有無を記録した。
後者については,2007年10月6日から25日の間に,第1位雄,および13頭のオトナ雌中発情の見られた12頭を追跡対象とし,観察者1名がMTを1~3回記録するごとに対象を変えながら,同様の項目を記録した。
得られたデータを雄の属性毎に分けて分析したところ,金華山ではじゅうぶんなデータの得られなかった第1位を除き,以下のような結果が得られた。射精に至ったMTシリーズ平均時間長は,第1位雄以外の群れ雄も群れ外雄も金華山が屋久島に比べて長く,MT回数もスラスト回数も多かった。
霊長類では何度もマウンティングして何度もスラストする接触刺激が多くの射精量につながるとも言われている(Bercovitch & Nurnberg, 1996; Milton, 1985)。発情雌,雄とも空間密度が低い金華山では,異性の探索コストが高いと考えられ,現在コンソート関係にある異性との交尾での受精率を高めることが屋久島に比べてより有利となるため,こうした違いが現れたのではと推察された。