抄録
背景:ニホンザル(Macaca fuscata)もタイワンザル(M. cyclopis)も,どちらもカニクイザル種群に含まれ,マカカ属の中でも比較的近縁である。和歌山県では人の手によって持ち込まれたタイワンザルが野生化し,周辺のニホンザルとの交雑をしながら世代を重ねた。近年これらの交雑個体は駆除が進められ,骨格標本化されている。
目的:今回はオスの歯牙に着目し,まずニホンザルと比較した際のタイワンザルの歯牙形態特徴を明らかにし,その後に交雑の影響を検討した。
方法:ニホンザル,タイワンザル,両種の交雑集団の計3集団を対象に,上・下顎の歯牙の近遠心径と頬舌径をデジタルノギスによって0.01 mmまで計測した。交雑個体の交雑度は川本芳らによる遺伝的分析に基づいて,純粋なニホンザル(8/8)から純粋なタイワンザル(0/8)まで9段階に分けた。
結果:全体的にタイワンザルの歯牙はニホンザルに比べて小さく,ニホンザルの地域集団の中でもっとも小さいヤクシマザル集団に比べても小さい。しかしながら歯種ごとの比較では,タイワンザルの上・下顎の犬歯と下顎第3小臼歯は必ずしも小さくなく,ニホンザル全体の平均値に近い。逆に大臼歯部についてはニホンザルの各地域集団と比べて上下とも明確に小さく,しかも遠心の大臼歯ほどその差は大きくなる。
以上から,タイワンザルの歯列は相対的に大きなC-P complex部と小さな大臼歯部により特徴づけられる。犬歯と第二大臼歯を指標として交雑個体を見ると,ほとんどの個体はニホンザルの変異内にとどまっているものの,少数ながらニホンザルともタイワンザルとも異なる個体が出現している。また,歯種によっては,タイワンザルの比率が高い交雑個体はタイワンザルの変異内に近く,ニホンザルの比率が高い交雑個体はニホンザルの変異内に近い傾向が見られた。