抄録
ヒトの知性や行動を本質から理解するうえで,ヒトにおける脳の発達の特異性を明らかにし,その進化的由来をたどることが重要であると考えられる。
わたしたちは京都大学霊長類研究所で磁気共鳴断層画像法(MRI)を用いることにより,世界で初めて大型類人猿における乳幼児期から児童期までの脳の発達過程を縦断的に明らかにした。これにより,ヒトにおける脳の特異性の由来を,系統発生と個体発生の観点から包括的に分析することが可能となった。
今回の研究では,(1)ヒトで顕著に発達しているとされてきた大脳,(2)思考,判断,行動計画,社会性など高次の精神機能を司り,ヒト知性の座と考えられてきた前頭前野,(3)情動と社会性に強く関与する扁桃体の三つの脳領域の発達過程についてヒトとの比較を行った。
その結果,両者の乳幼児期から児童期にかけての発達様式が驚くほど共通しているが,一方で発達期間はヒトでは特異的に延長される可能性が高いという新知見を得た。この知見は,ヒトの脳の進化的基盤を解明するうえで大いに貢献すると考えられる。