抄録
伊豆大島には1939年から1945年にかけて島内の動物園から逸走し野生化したサルが生息しており,現在,島の中央を除くほぼ全域に群れが分布している。2001年から開始した遺伝子分析では,サルの糞から抽出したミトコンドリアDNAのD-loop第2可変域202塩基配列を解読し,大島に生息するサルの種の同定を行った。
この結果,分析した計105試料は全てタイワンザルタイプと判定され,これら105試料を2箇所の置換サイトからA・Bの2つのハプロタイプに区別した。また,この2タイプの分布には地理的に偏りがあり,逸走元である動物園を境にAタイプは時計回りに,Bタイプは半時計周りに分布拡大したように観測できた。
2008年からは,伊豆大島のタイワンザルの血液および組織由来の計39試料を分析し,ミトコンドリアDNAのD-loop第1可変域520塩基配列を解読した。分析の結果,挿入欠失変異1箇所,置換変異14箇所から,39試料を2タイプに区別した。この第1可変域の2タイプは第2可変域のA・Bタイプと完全に対応していた。第1可変域の2つのハプロタイプについて,台湾の研究結果(Chu et al,2005)と比較したが,1タイプは台湾南西部のタイプと一致し,もう1タイプは台湾南西部のタイプに近いことが分かった。
今後の研究によっては,伊豆大島のタイワンザルの原産地が解明される可能性がある。また今回は試験的に常染色体マイクロサテライト11遺伝子座およびY染色体マイクロサテライト3遺伝子座を分析した。今後は,分析数を増やし,伊豆大島におけるタイワンザルの遺伝学的集団構造のモニタリングについて検討したい。