抄録
倹約遺伝子はエネルギー消費を抑え,食物の乏しい時に有効に作用する遺伝子多型のことである。これまで,β3アドレナリン受容体(ADRB3)は非ヒト霊長類では全ての個体がArg64を有し脂肪細胞内での脂肪分解を低下させエネルギー消費を抑制しているが,ヒト化に至る段階で消費型のTrp64が出現し,現在ではこの頻度の方が高くなっていることを示した。しかし,ADRB3の作用で遊離した脂肪酸により熱を産生する脱共役タンパク質(UCP1)は大部分のヒトと同様発熱しやすい-112A型であることを報告してきた。
本報告では,脂肪を蓄積する脂肪細胞を繊維芽細胞から分化誘導する転写調節タンパク質であるPPARγ2のPro12Ala多型について,非ヒト霊長類で調べた結果を報告する。PPARγ2は脂肪細胞への分化と,さらに高脂肪食下では巨大脂肪細胞へ誘導するため,インスリン抵抗性を誘発するTNFαやレジスチンなどを放出させることが知られている。しかし,Pro12Ala変異が起きるとそのインスリン抵抗性が抑制され,糖尿病発症が抑制される。日本人では4%,コーカソイドでは20%の頻度である。非ヒト霊長類のこの領域をPCR法によって増幅後,HhaIによる切断で検討した。チンパンジー33頭,ゴリラ8頭,オランウータン13頭,ニホンザル39頭,カニクイザル19頭,計122頭ではすべて,Pro12タイプであった。したがって,脂肪細胞への分化と,もし高脂肪食を摂取し続けた場合には巨大脂肪細胞へ誘導されるアリルを有していた。ニホンザルでは秋に脂肪含量の高い木の実を摂取した際,脂肪細胞に脂肪を貯えるのに有利になっていることが明らかとなった。しかし,非ヒト霊長類では常に高脂肪食を摂取できず,雨季や乾季,高温や低温などの季節変化により食物の質や供給量が変化するため,乏しい時に備え脂肪を蓄積できるようになっていると考えられた。