抄録
Saimiriの化石種であるNeosaimiriの下顎大臼歯には,entoconidの遠心頬側にpostentoconid notchが存在する。これはNeosaimiriの特徴と考えられており,発見されているほとんどの個体に存在する。いっぽう,現生種のSaimiriでは同じ位置にwear facet 8があるが,notchが存在する個体も確認された。notchがfacet 8のようにhypoconeと咬み合っているのであれば,そこにはfacet 8と同じ圧痕や摩剥痕といったmicrowearがあるはずである。また,notchのある個体は,hypoconeの高さおよび上顎大臼歯の大きさがNeosaimiriと同サイズの可能性がある。そこで本研究では,2種の大臼歯の形態,とりわけnotchとhypoconeの相関関係を検討した。資料はNeosaimiriとSaimiriの標本を使用し,観察対象は上顎・下顎の第1大臼歯とした。走査電子顕微鏡およびデジタルマイクロスコープで観察し(20-500倍),hypoconeの高さと大臼歯のサイズをノギスで計測した。結果,notchにはhypoconeのfacet 8および先端部と同様のmicrowearが存在した。notchのある個体は,hypoconeの高さがNeosaimiriとほぼ同じで通常のSaimiriより高く,上顎大臼歯のサイズも通常のSaimiriより大きかった。postentoconid notchはhypoconeと咬み合っており,notchの有無にはhypoconeの高さが重要と考えられる。また,現生種への進化過程においてhypoconeと上顎大臼歯は縮小傾向にあり,notchとそれに咬み合うある程度高いhypoconeをもつ個体は,減少していることが示唆された。