抄録
霊長類は種ごとに多様な適応放散を示し,その結果として種に固有な運動様式とそれに対応した形態的特徴を持つようになったと考えられている。しかし,こうした霊長類の運動様式の進化過程についてはまだ不明な点が多く,さまざまな研究によるアプローチが行われている。
その中で,チンパンジーを対象として霊長類各種に共通した運動である垂直木登りについて運動観察による研究を行ってきている。観察は岡山県玉野市にある林原類人猿研究センターに協力していただき,同センターに飼育されているチンパンジーについてその木登り運動を6ヶ月ごとにビデオ撮影することにより行っている。
これまでの得られた結果として,発達にともなう運動パターンの変化は上肢よりも下肢で大きく,上肢では身体を上方へ引き上げる働きから身体をさせる機能が強くなること,下肢では足関節の底屈による身体の押し上げが強くなることなどが認められた。また,同時にこれらの発達的変化については,個体による差が大きいことも認められた。
この点に関しては,木登り運動は,地上での運動と異なり重力に抗する運動であるため,身体を上昇させるには大きなエネルギーを必要とし,また身体の支持にも,手掌部や足底部の摩擦力を増大させるため,垂直方向とともに水平方向への力も増大させる必要があることが影響していると考えられ,こうした影響がもっともよく示される個体間の差として,体重による影響がもっとも大きく関係するのではないかと推測された。
しかしながら,体重差が大きな要因であるとしても,実際の観察では体重差が少ない個体間でも運動パターンに差が示されている。そのため,体重差以外の形態計測データについて検討し,それらの影響について考察する。