抄録
霊長類の子は発達するにつれて徐々に母から離れるようになる。母は子が離れているときには子の周辺に注意を向け、子が危険ではないかを確認しており、危険な状況であれば子を回収する。Onishi & Nakamichi (2011) は、ニホンザルを対象に、母ザルが子ザルを見る行動であるモニタリング (Maternal infant monitoring) を分析し、母ザルがどのように子ザルの保護に労力を配分しているのかを検討した。その結果、母ザルは子ザルが他個体からhandlingを受けている時に頻繁に子ザルを見ていた。それでは、母ザルは子ザルの周辺にいる第三者個体が誰なのかまで把握した上で、子ザルを見る頻度を変化させているのだろうか。本研究では、子ザルに近接している個体の性・年齢 (成体オス、成体メス、未成体)、母ザルとの血縁関係、母ザルとの相対順位が母ザルのモニタリングの生起頻度に影響しているのかを検討した。
勝山ニホンザル集団において、0歳齢の子ザルとその母ザル16組を対象として研究を行った。観察期間は2005年7-10月と2006年5-10月までの間の166日間であった。子ザルの7-8週齢から17-18週齢までを観察した。1セッション20分間の連続観察を、各母子ペアにつき12時間行った。
母ザルは、子ザルに「母ザルよりも優位な非血縁成体メス」が近接 (1.5m以内) しているときに頻繁にモニタリングを行い、「血縁未成体」が近接しているときにはあまりモニタリングを行っていなかった。子ザルが他個体から受けた攻撃行動の頻度を分析した結果、子ザルは「優位な非血縁成体メス」から激しい攻撃を受ける事が多かった。また、母ザルから離れている時に子ザルが発した苦痛や不安を訴える鳴きの頻度を検討した結果、「優位な非血縁成体メス」が近接しているときに子ザルは頻繁に鳴いており、「血縁未成体」が近接しているときにはあまり鳴いていなかった。母ザルは子ザルの周囲にいる個体が誰なのかまで識別しており、子ザルをモニタリングする頻度を変化させていた。母ザルは子ザルに対して頻繁に激しいハラスメントを行う個体を特に警戒しており、子ザルを危険や不安から代わりに守ってくれる年長のきょうだいが近くにいるときには、任せてモニタリングを減らしていた。