抄録
ニホンザル(Macaca fuscata)が行なうグルーミングにより除去される物質は98.9%がシラミ属(Pedicinus sp.)の卵であり(Tanaka and Takefushi, 1993)、また、グルーミング行動とシラミ生態の間には密接な関係があることが示唆されている(Zamma, 2002)。しかし、ニホンザルに寄生するシラミに関する知見は少なく、年齢ごとの寄生数などは明らかにされていない。そこで本研究は、ニホンザルの体毛上に存在するシラミの卵の数から、ニホンザルの年齢とシラミの寄生数の関係を明らかにすることを目的とし、実体顕微鏡を用いて野生ニホンザルの皮膚を観察した。観察対象は福島県福島市で個体数調整のために殺処分されたニホンザルの左手首の皮膚とした。各皮膚サンプルは、性と年齢区分(infant、juvenile、adolescent、adult)に応じて分類し、観察区画(6cm2)内の膠着物をカウントした。卵の数について、性と年齢区分を要因とする二元配置分散分析を行なったところ、有意な年齢差が認められた(F[3,56]=3.507, P<0.05, η2=0.16)。年齢差について、Bonferroni法による多重比較検定を行なった結果、juvenile-adult間に有意な差が認められた(P<0.05, d=0.09)。juvenile個体においてシラミの卵が多く確認されたことは、体毛密度や歯の生え変わりといった、卵の除去を妨げる要因に加え、他個体との関係性の変化により、シラミの寄生が維持されやすいためであると考えられた。このことから、ニホンザルの年齢に応じて、シラミの寄生数が異なる可能性が示唆された。