霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: A-16
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口頭発表
GISによるハビタットモデルで予測するニホンザルの生息可能性―亀山市における害獣問題を巡って―
*土居 理雅サンガ・ンゴイ カザディ
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抄録

 本解析では亀山市のニホンザル(Macaca fuscata)をケーススタディとした生息適地モデリングを行う.人間に負荷のかからない猿害対策として、サルの移住は有効な考えであり、それに適した土地を抽出することが肝要である.標高・相対群密度・植生・温量指数の4つの環境要因を観点に置き,サルの生息し易さを表すHSI (Habitat Suitability Index)を算出する為にDempster-Shafer理論を用いた.温量指数が低い地域は標高が高く,植生はEvergreen broad-leaves forestsとConiferous forestsが大半を占めサルの餌にはならない.サルの生息面積が全体の約70%となった温量指数域121-126℃・月では生物多様性の高い植生であるGolf courtsとMixed forestsが優占していること分かった.温量指数がより高い地域は標高が低く,人為的カテゴリーの占める割合が高いためにサルの生息は制限され現在は生息情報が少ない.得られたHSI Mapより低地にHSI≧0.8が多く見られるが,渡邊(1994)によるとサルのもつ環境要求と人間のそれは高い割合で一致する.このためHSI≧0.8の大部分が低地となった.本来であればサルの生息に適したhabitatに今は人間が住んでいるため, 住み分けが上手くいかない地域では猿害が生じている.つまり現在の山奥は生物多様性の低い植生に占められておりHSIは低くサルの生息には適さない.反対に植生の豊かな低地はHSIが高いが人間活動が盛んな地域に隣接しており,畑や水田にサルが出没しやすい環境となっている.サルの生息は山の針葉樹林と低地の人間活動に挟まれて,制限されていることが科学的かつ定量的に証明された.また低地に広く広がるHSI≧0.8の存在は、この地域が潜在的に害獣問題を増長させる危険性を示唆している.

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© 2012 日本霊長類学会
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