霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: B-11
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口頭発表
チンパンジー大腿骨頸部の機能形態的特徴
*松村 秋芳中村 好宏野口 立彦岡田 守彦
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抄録
 骨の形態は動物の日常生活における負荷をよく反映する。これまでの研究から、チンパンジー大腿骨頸部横断面では、上部の緻密骨厚が下部や上前部よりも薄いことが知られている。チンパンジーの行動様式と大腿骨頸部の機能形態との関連性をしらべるために、大腿骨頸部の緻密骨および海綿骨の分布と骨密度を分析し、頸部にかかる負荷について考察した。
 実験材料は獨協医科大学所蔵のチンパンジー(Pan troglodytes)大腿骨標本(右側)6個体を用いた。pQCT骨密度測定装置XCT Research SA+(Stratec Medizintechnik GmbH)を使用して、大腿骨の頸部長軸に沿った5カ所をスキャンして、骨密度の測定を行った。横断画像から部位ごとの緻密骨の厚さ、断面特性値および骨密度を計算した。ビデオ画像と先行研究のデータからチンパンジーの下肢の運動と大腿骨頸部の形態的特徴との関係を検討した。
 大腿骨頸部の緻密骨面積は基部から大腿骨頭下縁にかけて減少した。緻密骨密度は個体差があるが、遠位にかけて減少し、緻密骨面積と類似した傾向を示した。海綿骨の面積は頸部の基部から骨頭下縁にかけて増加した。海綿骨密度は基部から骨頭下縁にかけて増加する傾向を示した。断面2次モーメントは、骨幹長軸方向に大きかった。緻密骨厚は、既知の計測値と同様に、上部が下部や上前部よりも薄いことが確認された。チンパンジーの大腿骨頸部は、ヒトほど明確ではないが、上部が下部よりも薄く、鉛直方向の負荷に適応していると考えられる。大転子への移行部にあたる上前部で緻密骨厚が大きいことは、大転子に付着する中殿筋の負荷が大きいことを示唆する。海綿骨が骨頭近くの頸部に多いことは、頸部の遠位側で負荷の方向が多様なことを示唆する。これらの特徴は、この動物の木登り行動や二足行動、四足行動などの多様な行動様式を反映していると考えられる。
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© 2012 日本霊長類学会
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