抄録
目的:変異が少ないとの予断により,機能に較べ研究がほとんど行われていない犬歯の形態について、大型類人猿の下顎犬歯形態の変異を明らかにする。
資料:Pongo pygmaeus(オス:10,メス:10) Gorilla gorilla(オス:11,メス:3), Pan troglodytes(オス:12,メス:8), P. paniscus(オス:13,メス:12)の下顎骨標本。方法:石膏模型より尖頭観・舌側面観の写真撮影を行い,点描画で観察。
結果:尖頭側で4種とも歯冠長軸と近心切縁隆線は斜交している。概形は全体に長円形を呈し,とくにメスでは全体的に丸みを帯びる。舌側面ではオスは4種ともshoulderが低く(歯頚近くに位置する),概形は二等辺三角形。とくにオランウータンとゴリラは舌側面全体に皺(細かな隆線と溝)が比較的多い。チンパンジーとボノボは遠心舌側基底部が外側に張り出す。歯頚隆線の発達は4種とも良い。 メスは4種ともオスよりは尖頭が低く,ゴリラ以外は近心shoulderが高く(尖頭寄り),この傾向はボノボで著明。近心切縁隆線と近心辺縁隆線の角度はオスよりも鋭角である。近心切縁縦溝の発達は微弱で,オスと同様に歯頚隆線で遮断されている。遠心舌側隆線は4種とも太く,オランウータンとゴリラは尖頭から舌側結節まで直行するが,チンパンジーとボノボは近心へゆるく湾曲し,遠心舌側部が発達。歯頚隆線はメスの方が4種とも膨隆し,オランウータンでは舌側結節部で歯頚隆線の幅が広い。
考察:オランウータンとニシローランドゴリラのオスは概形が二等辺三角形で、表面に皺が多い。一方、チンパンジーとボノボのオスは遠心舌側基底部が外側に張り出すが,メスではこの傾向はやや弱い。化石人類のA. africanusは舌側面に皺がなく,隆線や溝が明白で,舌側結節も発達し、近遠心shouldersの位置もボノボのメスと類似している。しかし,遠心舌側部の外側への張り出しはない。現代人犬歯は大型類人猿よりもA. africanusに似ており,遠心shoulderの位置はさらに尖頭寄りにある。