抄録
トランスポゾンは、転移するという性質から、入った場所や近辺にある遺伝子に遺伝情報の変化をもたらす。また、散在反復配列であることから、相同組換えを通して逆位や転座などの染色体構造変化の原因にもなる。このようにトランスポゾンは、進化の素材である変異をゲノムに供給する。我々は今回、上記のような既知のものとは異なる様式でのトランスポゾンの影響を、テナガザルで見出した。SVA 因子とよばれるレトロトランスポゾンは、ヒト上科の共通祖先で生じたと考えられている複合型因子である。3つの領域からなり、右端(SINE)と左端(Alu)は、それぞれが単独のトランスポゾンに由来する。内部(VNTR; variable number of tandem repeat)は 30-50 bp の単位が縦列に連なった反復配列である。ヒトのゲノムには SVA 因子は約 2,800 コピーあり、染色体の全域に散在する。VNTR 領域の長さがコピーごとに異なり、因子の長さの平均は約 0.8 kb、最大は約 2.3 kb である。フーロックテナガザル(Hoolock hoolock)でも同様の因子が存在するが、これに加えて長大な VNTR が多数存在する。染色体上での場所はセントロメアであり、ヘテロクロマチンを形成していると考えられる。1か所の長さは 40 kb 以上、ゲノム内での全量は標準型 SVA 因子に含まれる量の合計の10倍ほどである。すなわち今回の発見は、トランスポゾンが新規のヘテロクロマチンを大量に供給する現象である。ヒトのゲノムにも SVA 因子は多数存在することから、ヒトでも同様の現象が起こる可能性はあると考えられる。