近年、ニホンザルは人間活動による個体群の縮小と拡大を経験した。急激な有効集団サイズの縮小は、ボトルネック効果によって遺伝的多様性を低下させる。有効集団サイズが速やかに回復しなければ、強い遺伝的浮動によって遺伝的多様性の低下は加速する。島嶼個体群では、環境収容力が有効集団サイズの回復を抑制する可能性がある。そこで、個体群縮小が島嶼個体群にどのような遺伝的影響を及ぼしたのか、本土個体群との比較の上で検討する。
宮城県金華山島と本土(宮城県周辺)の個体群から得たマイクロサテライト8領域を利用して、遺伝的多様性(アリル数・アレリックリッチネス・遺伝子多様度)の定量化、ボトルネック効果・個体群拡大の痕跡の確認(ヘテロ接合体過剰・Pk分布)、有効集団サイズの推定を行った。金華山に関しては、個体数の記録から個体群縮小時の有効集団サイズも推定した。本土では個体群拡大が続いている一方、金華山では環境収容力が小さく300頭を超えた記録がない。