霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: B-23
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口頭発表
島嶼のニホンザル個体群における個体群縮小の遺伝的影響
*風張 喜子井上 英治川本 芳中川 尚史宇野 壮春井上-村山 美穂
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抄録

 近年、ニホンザルは人間活動による個体群の縮小と拡大を経験した。急激な有効集団サイズの縮小は、ボトルネック効果によって遺伝的多様性を低下させる。有効集団サイズが速やかに回復しなければ、強い遺伝的浮動によって遺伝的多様性の低下は加速する。島嶼個体群では、環境収容力が有効集団サイズの回復を抑制する可能性がある。そこで、個体群縮小が島嶼個体群にどのような遺伝的影響を及ぼしたのか、本土個体群との比較の上で検討する。
 宮城県金華山島と本土(宮城県周辺)の個体群から得たマイクロサテライト8領域を利用して、遺伝的多様性(アリル数・アレリックリッチネス・遺伝子多様度)の定量化、ボトルネック効果・個体群拡大の痕跡の確認(ヘテロ接合体過剰・Pk分布)、有効集団サイズの推定を行った。金華山に関しては、個体数の記録から個体群縮小時の有効集団サイズも推定した。本土では個体群拡大が続いている一方、金華山では環境収容力が小さく300頭を超えた記録がない。 遺伝的多様性は、金華山で低かった。ボトルネック効果の影響は本土で弱く、金華山で強かった。個体群拡大の痕跡は、本土では若干認められたが、金華山では見られなかった。また金華山の有効集団サイズは著しく小さく、個体群縮小時からの回復は小さい。 本土ではボトルネック効果の影響が残るものの、有効集団サイズは徐々に回復しつつあると言える。これは、著しい個体群拡大や金華山に比べて高い遺伝的多様性にも矛盾しない。一方、金華山では、環境収容力に依存して有効集団サイズの回復が著しく遅れていることが考えられた。金華山の遺伝的多様性は、ボトルネック効果によって低下したうえ、強い遺伝的浮動が長く働くことで、低下が加速していると言える。近年の人間活動による個体群縮小は、他の島嶼(半島)個体群にも同様の結果をもたらしている可能性が示唆される。

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© 2012 日本霊長類学会
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