霊長類研究 Supplement
第28回日本霊長類学会大会
セッションID: P-32
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ポスター発表
里の動物としての西チンパンジー:有用樹アブラヤシとの共存史
*山越 言
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抄録
 西アフリカのチンパンジーは、コートジボワール西部のタイ森林など、限られた熱帯林に生息するいっぽう、セネガル南部などの乾燥地環境や、農業の影響を強く受けた二次的環境にも広く適応している。西アフリカのギニア湾岸地域には、「パームベルト」と呼ばれる、アブラヤシを基幹とした田園景観が広がり、そこでチンパンジーがネストや食物資源としてアブラヤシに強く依存する姿が明らかになっている。ギニア共和国ボッソウのチンパンジーで見られるナッツ割りや杵つきといった道具文化は、アブラヤシの生態学的重要性を示す好例である。
 パーム・ベルト地域の在来農業システムにおいて、焼畑を介した人とアブラヤシの関係は独特かつ密接である。人々はこの有用樹を焼畑の伐開時に切り残すため、耐火性の強い性質から、その後の火入れ時にも生き残り、米やキャッサバの収穫後、畑が放棄された後に成長する休閑地の叢林の林冠部を構成する。興味深いことに、このサイクルの間、アブラヤシは人々による手入れをほとんど受けず、選択的な育種行為も見られない。極言すれば、アブラヤシは畑に雑草のように生育している。花粉分析などの研究から、アブラヤシ二次林の歴史はほぼ4000年前から発達したと推測される。
 近年、タイ森林では、ほぼ4000年前のチンパンジーのナッツ割りの考古学的痕跡が確認されており、チンパンジーのナッツ割り文化の原生林起源が主張されている。少なくとも現時点での年代の比較のみから言えば、人為的植生下でナッツ割り文化が独自に発生したとする故コルトラント博士が主張した複数起源説は否定されていない。このように、チンパンジーを長きにわたって人里環境に適応した「里の動物」として見ることで、人為による植生改変とチンパンジーの進化との興味深い関係が明らかになるであろう。
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© 2012 日本霊長類学会
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