抄録
動物の食物選択性の研究では,食物の化学成分と量という 2つの要素を同時に考慮することが重要である.我々は,ボルネオ島の固有種であり類似の消化機構(前胃醗酵消化)を有しながらも,異なる植生域に生息する 2種のコロブス類(テングザルとクリイロリーフモンキー)の葉の選択性と,その採食戦略を明らかにした.河畔林(二次林)に生息するテングザルと,フタバガキ一次林に生息するクリイロリーフモンキーの両種に共通した食物選択の傾向は,よりタンパク質含有量が豊富な葉を好むということであった.また,両霊長類種が好んで採食した食物種の中では,より森に豊富にある植物種が選ばれる傾向にあることがわかった.これらの結果から本コロブス類二種の葉の食物選択には,タンパク質含有量が多く大量にある植物種の葉を好んで選択することにより,食物の探索や摂取に要するエネルギーや時間を節約するという古典的な最適採食モデルの適応が可能であることがわかった.共通した食物選択性が見られた一方で,両霊長類種において異なる採食戦略も明らかになった.クリイロリーフモンキーは,より厳密に葉を選択して採食するが,テングザルではクリイロリーフモンキーほどは厳格な食物選択性が見られなかった.これらの採食戦略の違いは,ボルネオ島の一次林と河畔林の葉の質(繊維とタンパク質含有量の割合)の違いと関係していることが示唆された.つまり,両霊長類種の主要な食物である葉の質が高い河畔林に生息するテングザルは,その質の低い一次林に生息するクリイロリーフモンキーに比べ,それほど厳密な食物選択を強いられていない可能性を示した.