抄録
【諸言】エゾシカは,北海道に生息するニホンジカの亜種であり,季節繁殖動物である.本研究では,分化および成熟過程,さらに季節変化(繁殖期・非繁殖期)における精巣の細胞骨格タンパク質の発現変化を確認するため,胎子から成体に至るまでのエゾシカ精巣を免疫組織化学的に検索した.
【材料及び方法】2002年から 2007年にかけて狩猟,学術捕獲および有害鳥獣駆除の目的で捕獲された雄のエゾシカ 29個体から精巣を採取し,ブアン液またはリン酸緩衝 10%ホルマリン液で固定した後,定法により 4.厚の切片を作製した. α -smooth muscle actin (SMA),tubulin,desmin,vimentin,そして cytokeratinの精巣における発現と分布について,ABC法を用いた免疫染色により検索した.
【結果及び考察】SMAは胎子期から成体までの精細管周囲の筋様細胞や血管壁において認められた.特に精細管周囲の筋様細胞の陽性反応は胎子期では弱かったが,成熟に伴ってその発現は強くなっていった.また非繁殖期に比べて繁殖期の精細管は顕著に拡大しており,SMAはそれに合わせて精細管を大きく縁取りしていた.tubulinは胎子期から成体に至るまでセルトリ細胞に認められた.繁殖期の精巣では,tubulinはセルトリ細胞の細胞質の伸長に合わせて管腔に向かって顕著に伸びていた.desminは筋様細胞に認められ,精細管周囲を取り囲んでいた.vimentinは全てのステージで,ライディッヒ細胞,セルトリ細胞,筋様細胞,そして血管壁において陽性であった.繁殖期の精巣のセルトリ細胞では,vimentinは基底から管腔に向かって顕著に伸長していた.一方,cytokeratinは精巣網の上皮にのみ認められた.以上の結果から,SMAと desminは精細管周囲筋様細胞において発現して主に精細管の管腔構造の維持や調整に対して機能し,vimentinや tubulinはセルトリ細胞の細胞骨格として精子形成に伴うセルトリ細胞の形態や機能の変化に関与しているものと考えられる.