抄録
北海道の森林に生息するエゾモモンガ Pteromys volans oriiは,主に樹洞をねぐらおよび繁殖場所として利用する.本種は樹上性および夜行性であるため目視観察を行うことは困難であるが,巣箱を利用した手法による研究成果が蓄積されている.北海道富良野市に位置する東京大学北海道演習林において巣箱を用いた本亜種の調査を 4年間継続して行った所,本亜種による巣箱の利用性は一様ではなく,繁用される巣箱もあれば,利用されない巣箱も存在することがわかってきた.そこで本研究では,北海道の山間部天然林に設置した巣箱の設置場所およびその周囲の環境要因を調査し,本亜種による巣箱利用に影響を与える環境要因を解明することを目的とした.調査は,2008年から継続して巣箱が設置されているトドマツが優占する針広混交林 2箇所 (調査区A・B)において実施された.非積雪期である 5月から 10月にかけて 120個の巣箱の内部を毎月 1回の頻度で日中に確認し,個体の確認 , 巣材および糞などの痕跡の発見に基づいて使用の有無を記録した.また,巣箱設置木の特徴 (樹種・樹高・胸高直径・生育斜度,および巣箱の設置高・設置方角 )およびその周囲環境 (平均胸高直径,平均樹高,胸高断面積合計,立木本数,トドマツ優占割合,トドマツ以外の優占樹種 ,隣接する巣箱の利用状況 )を説明変数とし,本亜種の巣箱利用の有無を目的変数としてロジスティック重回帰モデルを用いたステップワイズモデル選択を行った.
その結果,調査区 Aでは巣箱設置木の樹種 (トドマツ)・巣箱設置高・巣箱設置木の胸高直径・平均樹高の 4項目,調査区 Bでは巣箱設置木の樹種 (トドマツ)・立木本数の 2項目が本亜種の巣箱利用に影響を与えることが示唆された.類似した環境の調査区にも関わらず異なった要因が影響を与えることが示唆されたことから,今後さらに多くの異なる環境において本亜種の巣箱利用性を調査していく必要があるだろう.