抄録
屋久島海岸域に生息するニホンザルでは,多くの霊長類種と異なり,大きい群れに属するメスの出産率が高くなる.これは,食物資源が豊富であり,群れ密度が高い屋久島海岸域において,群間での採食競合が非常につよく働いているためであるとされている.群間の順位関係は,群れサイズによって決まり,大きい群れは小さい群れに対して優位である.その結果,群間エンカウンターに勝利した大きな群れのメスは,食物資源の豊富な行動圏を獲得することで,より多くのエネルギーを獲得し,高い出産率を達成していると考えられている.しかし,そのメカニズムを直接検証する研究はいまだに行われていない.2012 年 10 月から 2013 年 3 月の間,屋久島海岸域に生息するニホンザルの群れ(KwA 群 : 30-38個体, KwCE 群: 12-15 個体)を対象として,2 群に属するすべてのオトナメスを個体追跡し,直接観察を行った.毎分,追跡個体の活動(採食・移動・毛づくろい・休息・その他)を記録した.採食については,採食時間,採食品目(種・部位),採食樹の体積,同一採食樹内個体数などを連続記録で記録した.また,GPS を用いて,追跡個体および採食樹の位置を記録した.小さい群れは,大きい群れに比べて行動圏は小さかったが,移動距離が長く,移動時間割合が大きかった.また,小さい群れは採食時間割合が小さく,果実種子採食時間割合が大きかった.一方,利用食物パッチ数,食物パッチ間距離および食物パッチ滞在時間に差はなかった.群間で食物パッチ利用に違いはなかったが,小さい群れでは移動に関するコストが大きく,メスの栄養状態に影響している可能性が示唆された.