抄録
哺乳類動物は人間との関わり合いが強く,興味関心が集まっている.その中でも,ツキノワグマは被害が出ると必ずニュースや新聞で取り上げられるなど,国民の関心は強いと言える.しかし,危険性や,直接観察の難しさから,研究されていないことが多く,その生態や行動は不明瞭のままである.ツキノワグマ (Ursus thibetanus)は日本国内に生息する哺乳類としては,最大級の大きさを誇る森林性動物である.生息地は本州・四国(九州では絶滅したとされる)で,その中でも現在 5地域の個体群が絶滅の危機にさらされている.森林内におけるアンブレラ種として,保護することにより,生態系ピラミッドの下位にある動植物や広い面積の生物多様性・生態系を保全出来るとされている.しかしながら,逆に農林業被害や人身被害といった問題も存在し,有害獣として捕殺されてしまっている.そこで,本研究では,群馬県ツキノワグマの遺伝的多様性を調査し,その集団構造解析を行うことで,適正管理計画の基礎資料とすることを目的とした.
本研究ではミトコンドリア DNAの D-loop領域や MHCといった遺伝子配列を決定し,分析を行った.ミトコンドリア DNAでは,6つのハプロタイプを同定した.これは Onishi et.al.(2009)で示された東日本に生息するツキノワグマで同定された 38ハプロタイプの内,E01,E06,E10,E11,E31,E34に該当した.このハプロタイプの地理的分布と集団構造解析から,群馬県適正管理計画で設定されていた人為的な地域個体群(越後・三国個体群と関東山地個体群)とは,異なる境界分布をしていることが示された.これは,現在の適正管理計画の分類ではツキノワグマの自然集団の適切な保全を実施していくために,分布境界線を見直していく必要があると言える.