抄録
シカによる林業被害軽減のために個体数管理の実施が重要とされており,新たな捕獲技術の開発が求められている.誘引狙撃法は新しい効率的捕獲技術として各地で実施されており,成果を上げつつある.しかし,本手法は狙撃に適した見通しのよい場所が必要であり,森林内での実施は場所が限定されるといった課題も残されている.一方,伐採地または植栽地は見通しがよいこと,餌資源量が一時的に増加しシカの出没頻度が高まることから本手法の実施が可能である.また,被害防止対策として提案されているパッチディフェンスと本手法を組み合わせることで,より効果的な森林再生技術を確立できると考えられる.そこで本研究では,パッチディフェンスを設置した植栽地内において誘引狙撃法を試行し,捕獲成功に必要な条件の整理を目的とした.調査は三重県多気郡大台町内のパッチディフェンスを設置した植栽地(3.2ha)において実施した.植栽地内に給餌場を 3カ所(H1,H2,H3)設置し,60~ 80m離れた地点にそれぞれ狙撃場を設置した.餌はヘイキューブおよび圧片トウモロコシを用い,給餌場に設置した自動撮影カメラを用いてシカの出没状況を記録した.調査は 2013年 2月に実施し,6日間の餌付け作業後に捕獲を実施する工程を 2回繰り返した.H2は日中におけるシカの出没頻度が最も高く,給餌開始後から日数の経過とともに出没時間帯が早くなる傾向がみられた.1回目の捕獲実施後も同様の傾向が確認された.その結果,H2では 2回の捕獲実施で 3回シカが出没し,合計 6頭の繰り返し捕獲に成功した.一方,H1および H3では日中におけるシカの出没がほとんどなく,H1では捕獲成功に至らなかった.これは,狙撃場の配置がシカの出没に影響したものと考えられた.植栽地において誘引狙撃法を実施する場合は,シカの警戒心を高めないようにパッチディフェンスなどの構造物を利用して射手を配置するなどの検討が必要であると考えられた.