抄録
これまでさまざまな種の霊長類を対象とした比較認知研究がおこなわれてきたが,曲鼻猿における研究はまだ少ない.本研究で対象とするアカエリマキキツネザルは,マダガスカル島にのみ生息し絶滅が危惧されるキツネザルの一種である.原始的な特徴を残しつつも独自の進化を経ており,周日行性で嗅覚が鋭く,繁殖や子育てに特徴がみられる.本研究では,認知における進化的基盤を探るため,横浜市立野毛山動物園で飼育されている 2個体(オス;10歳,メス;13歳)を対象として,タッチパネルモニタをもちいた認知課題を導入した.装置は,タッチパネルモニタを飼育室の金網越しに設置し,モニタ画面上に画像を呈示した.被験体に対しモニタ画面に触る馴致をおこなったのち,画像選択課題を導入した.第一段階では,事前に設定したカテゴリーのなかから 1枚の画像が呈示され,被験体が画面に触れると必ず報酬(リンゴ片)が得られるものとした.第二段階以降は選択課題とし,2種のカテゴリーから 1枚ずつを対呈示し,被験体が正カテゴリーの画像を選択すると正答とした.正答時にはリンゴ片を報酬として与え,誤答時には無報酬で 2秒のタイムアウトののち次の試行へ移った.ただし,被験体2個体は同室のため,どちらかモニタ前に来た個体に試行をおこなわせ,被験順序は問わないこととした.また,被験体は探索時に鼻をもちいる傾向があったため,鼻タッチも手指タッチと同様に一反応として扱った.第一段階では,画像ごとの反応時間を調べることで,反応を誘発するパラメータについて検討した.また,テスト刺激として異なるカテゴリーの画像を試行間に挿入し,ベースカテゴリーの画像との反応時間の違いを調べた.第二段階では,異なるカテゴリーの組み合わせによる弁別学習について検討した.