抄録
特定の他者に毛づくろいを行って親密な関係を築くことは、霊長類にとって適応的であると考えられるが、親密な相手に毛づくろいを行うとどのような利益が得られるのかについて十分にはわかっていない。本研究は、相手との親密さを考慮して、相手に毛づくろいを行った後に、ストレスが減少するかどうかを、スクラッチをストレスの指標として検討した。
勝山ニホンザル集団(岡山県真庭市)における17頭の成体メスを対象に個体追跡観察を行った。毛づくろいを行った後の5分間のデータを分析に用いた。その毛づくろいが観察された日の翌観察日の同じ時間帯に、毛づくろい後のデータと比較するための統制条件の観察を5分間行った。普段の近接率をもとに、親密なペアと親密でないペアを定義した。
親密な相手に毛づくろいを行った後は、統制条件に比べて、スクラッチの生起頻度が有意に低くなっていた。しかし、親密でない相手の場合には、2つの場面のスクラッチ生起頻度に有意な違いは見られなかった。毛づくろい交渉後に、相手と近接していない場合のデータのみを分析しても、この傾向は維持されていた。さらに、線形混合モデルを用いて、毛づくろいを行った後のスクラッチ生起頻度の増減に、親密さ以外にも血縁関係や順位差が影響しているかを検討した。その結果、毛づくろいをした個体のスクラッチ生起頻度の増減には、親密さの影響はみられたが、血縁関係や順位差が影響しているとは言えなかった。
以上の結果から、親密な個体へは毛づくろいを行うとストレスが減少することが明らかになった。親密な相手には、毛づくろいを行うこと自体が利益となっているのだと考えられる。