抄録
ニホンザルは母系の複雄複雌群をつくり、オトナメスはグルーミングを通して、血縁個体と緊密な社会関係を構築する。2013年5月、屋久島海岸域において、複雄複雌群に属するオトナメス4個体のうち3個体が死亡し、複雄単雌群が形成された。唯一群れに残ったオトナメスはいかにグルーミングを行うのだろうか。本研究では、ニホンザル単雌群におけるオトナメスのグルーミング行動について報告する。2013年1月から8月の間、屋久島海岸域に生息するニホンザル1群を対象に行動観察を行った。観察開始時の群れサイズは13(オトナメス: 4, オトナオス: 4、コドモ: 5)であったが、2013年5月より、群れサイズ9(オトナメス:1, オトナオス: 3, コドモ: 5)の単雌群となった。すべてのオトナメスを対象に個体追跡を行い、毎分行動を記録した。また、追跡個体のグルーミング相手を記録した。唯一群れに残ったオトナメス1個体について分析を行い、単雌群となる前後で、グルーミング時間割合、グルーミング相手数、相手別のグルーミング時間割合を比較した。単雌群になった後、グルーミング時間割合が増加した。これは群れサイズ減少による採食時間減少が大きく影響していると考えられる。また、グルーミング相手数は増加した。複雌群では母親を含むオトナメスとの交渉が52%を占めていたが、単雌群ではそれまで一度も交渉が観察されなかった非血縁コドモメスとの交渉が50%を占めた。一方、オトナオスとのグルーミング時間割合に違いはなかった。複雄単雌群をつくるタマリンやマーモセットでは、オトナオスとオトナメス間で頻繁にグルーミング交渉が見られる(Goldizen, 1989)。しかし、母系社会であるニホンザルではそれとは異なり、非血縁コドモメスを相手とすることで十分なグルーミング時間を確保していることがわかった。