抄録
大腿骨は歩行機能の要であり、その形態は移 動様式の適応の結果として説明されることが多い。一方で、頭蓋形態研究の近年の進展により、中立的な進化過程が形態変異に与える影響が従来考えられてきたよりも大きいことが指摘されている。本研究では、ヒトと最も近縁な現生種Pan属の種・亜種をモデルとし、大腿骨形態の種間変異が適応的な進化過程によるものなのか、中立的な進化過程によるものなのかを明らかにすることを目的とする。Pan属のうち、Pan troglodytes trog-lodytes、P. t. schweinfurthii、P. t. verus、P. paniscusを用い、大腿骨の形態距離行列と中立的な遺伝距離行列とを、4つの成長段階で比較した。微小形態変異を評価するために、形態地図法を用いて形態変異を解析した。その結果、大腿骨の形態距離行列と中立的な遺伝距離とは、幼児期には高い相関を示すが、成体期には相関を示さないことが明らかとなった。このことから、Pan属においては、大腿骨の形態を決定する発生の初期プログラムは中立的に進化した一方で、発生の後期プログラムは適応的に進化してきたことが示唆された。