霊長類研究 Supplement
第30回日本霊長類学会大会
セッションID: B17
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口頭発表
岩手県五葉山系のニホンザルの生息実態と遺伝的多様性について
*大井 徹*川本 芳
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抄録
岩手県釜石市、大船渡市、住田町にかかる五葉山系は北上山系唯一のニホンザル生息地である。この地域のサルは、分布が孤立し生息数が少ないので、環境省のレッドリストでは絶滅の恐れのある地域個体群に指定されている。
私たちは1991年以降、個体群の存続可能性を評価するために群れの分布、生息数、遺伝子マーカによる個体群内外からの移出入の実態を調査してきた。1990年代初めの群れ数は3、個体数は40~50頭であったが、2014年3月の時点では、群れ数4、個体数約90頭と増加している。また、分布域は、下流の人里方向に拡大し、農業被害が徐々に増加している。
ミトコンドリアDNA非コード領域の第2可変域の配列(412 bp)では、五葉山系以外の東北地方のサルが同じ遺伝子タイプを持つ一方、五葉山系のサルはそれと異なる固有の遺伝子タイプを持っている(Kawamoto et al., 2007)。今回は、新たに非コード領域の約1,000 bpを32検体で解読した。この結果、五葉山個体群内で4タイプが判別でき、その分布が明らかになった。このタイプを識別することにより、個体の出自がどこかを判別できる。一方、常染色体のマイクロサテライト遺伝子の分析結果(Kawamoto et al. 2008)では、五葉山個体群では下北半島、白神山地のサルより対立遺伝子の多様度allelic richnessが大きく、個体群規模の大きな南東北と同程度と報告されている。このマイクロサテライト遺伝子の個体群間分化をもとに、五葉山と周辺個体群との遺伝子流動を検討したところ、南東北ならびに白神山地の個体群との交流が示唆された。
五葉山系の個体群は、オスの移住により遺伝的多様性は維持されていると推測できるが、個体群サイズからみるとまだ絶滅の危険性が懸念される。有害捕獲個体が増加しないよう被害防止に努める必要がある。
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© 2014 日本霊長類学会
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