抄録
生物体組織の炭素・窒素安定同位体比(それぞれδ13C値・δ15N値と表記)は,C3植物や陸上動物など大きなカテゴリーごとに,また植物では部位ごとに特有の値をとる.食物および消費者の体組織を同位体分析することで,それらの食物ごとの摂取比率を定量的に推定できる.本研究では,野生霊長類の食物摂取比率を定量的に復元することを目的に,ウガンダ・Kalinzu森林において,霊長類3種の糞と,食物となる動植物の同位体分析を行なった.2013年7-8月の1ヶ月間(乾季)に採取した試料を対象とした.
植物において,平均的な果実(10種)のδ13C値は葉・髄・若芽(15種)にくらべて5‰程度高く,δ15N値には有意差は見られなかった.昆虫・鳥類・哺乳類など動物のδ13C値・δ15N値は植物より高く,生態系の栄養段階上昇にともなう効果と考えられる.糞では,チンパンジー(Pan troglodytes, n = 4),ロエストモンキー(Cercopithecus l'hoesti, n = 4),アヒシニアコロフス(Colobus guereza, n = 6)の順にδ15N値が高くなり,δ13C値には有意な差が見られなかった.他の霊長類において食物と糞の同位体比の差を調べた先行研究を参考にすると,本研究の結果は,この時期のチンパンジーの食性の大部分が果実によっていたことを示唆する.また,ロエストモンキーでは昆虫食,アビシニアコロブスでは腸内発酵によって,それぞれ糞のδ15N値がチンパンジーより増加していると考えられる.
今後,サンプルサイズ・対象を増やし,雨季にも調査を実施する必要がある.行動観察の結果もあわせて検討することにより.多種の霊長類が共存するKalinzu森林における食生態を多面的に復元する計画である.