抄録
従来、自然植生を利用するニホンザル非餌付け群の生態学的研究は、落葉樹林を中心に調査されており、照葉樹林のニホンザルについては、亜種であるヤクシマザルの研究に集中していた。このため、ニホンザルの地域差が認められた際に、その差異が環境要因によるものか亜種間の差によるものか、明確に区別することが困難であった。本研究はこの問題を解決するために、大隅半島の照葉樹林においてニホンザルの調査を行った。調査地を、海岸から山頂まで自然植生が連続する稲尾岳自然環境保全地域から、猿害被害のある集落や杉の植林区域のある周辺域にかけて設定し、2013年9月11日から6日間の調査を行った。標高90―270mに走る道路15.7kmを7区間に分け、各区間に1―2人の調査員を配置し、午前と午後の2回、各4時間、道路をゆっくり歩いてニホンザルの声を記録し、目視した個体については性・年齢別にカウントした。調査により3群を確認した:(1)大浦集落周辺で14頭+(オトナ:メス6頭、オス3頭、不明1頭、コドモ:2頭、アカンボウ:1頭、不明:1頭)、(2)稲尾岳南東斜面で56頭+(オトナ:メス13頭、オス8頭、不明4、コドモ:18頭、アカンボウ:6頭、不明:7頭)、(3)打詰川周辺で66頭+(オトナ:メス23頭、オス3頭、不明1頭、コドモ:36頭、アカンボウ:2頭、不明:1頭)。いずれの群れも全頭をカウントすることができなかったが、大隅半島の照葉樹林帯に生息するニホンザルは、落葉樹林帯に生息するニホンザルとほぼ同じサイズの集団を作っており、屋久島の照葉樹林帯を含む植生帯のヤクシマザルよりも、集団サイズが大きいと考えられた。この結果は、ニホンザルの集団サイズが、単に植生の影響により決定されるわけではないことを示唆する。今後、継続調査により、正確な集団構成や遊動域等、照葉樹林のニホンザルの特徴について詳細にする予定である。