抄録
ナチョラピテクスの下位胸椎標本KNM-BG42810Bについては、2012年度の人類学会で発表したが、再分析の結果、新たな事実が判明したので報告する。
椎体の頭側関節面の面積は、タイプ標本の移行胸椎KNM-BG35250BOより大きいことが分かっていた。この差が胸椎レベルの違いによるものなのか、個体差によるものなのかを調べるため、現生の旧世界ザルにおける移行胸椎と、それよりも下位2つの胸椎において、同種・同性別内での個体差や胸椎レベルの違いによるサイズ差をもとに上記2標本の差を検討した。その結果、KNM-BG42810Bは移行胸椎よりも2つ下の胸椎である可能性が高いと推定された。
また、KNM-BG42810Bは椎弓板が変形し、棘突起は一部欠損しているものの、ほぼ変形することなく、下関節突起とともに全体が椎体へ腹側に押しやられている。そこで、椎体に対する棘突起の位置の復元を行った。現生霊長類において、椎体の尾側関節面レベルにおける下椎切痕幅、椎体の尾側関節面を基準とした下関節突起の尾側への突出度、そして椎体の背部と下関節突起・腹側面がなす角度を計測し、前者2つに関しては体重との相関式からナチョラピテクスにおける推定値を算出した。得られた推定値と角度データの平均を、ナチョラピテクス右側面の画像上に当てはめたところ、下椎切痕の頭側にあるアーチが弧を描き、妥当な復元ができたと考えられる。移行胸椎および下位胸椎2つにおける、椎体に対する棘突起の角度(椎体の背部面と棘突起の尾側面がなす角度)は、現生類人猿、一部の新世界ザル、そしてそれ以外の霊長類の順に大きく、復元された画像をもとに比較したところ、ナチョラピテクスの棘突起角度は現生類人猿に非常に近いことが分かった。科学研究費補助金(#20247033, #24000015, #15K14621)、住友財団・基礎科学研究助成の助成を受けた。