抄録
日本各地で、ニホンザルによる農作物被害の増加と分布の拡大が報告されており、その対策として捕獲による個体数調整が多くの地域で行われている。その効果的な実施のためには、被害の現状、被害を起こしている群れを把握したうえで、対策と効果を客観的資料によって評価する科学的管理が必要である。屋久島では、1980年代からニホンザルによる柑橘類を中心とした農作物被害が拡大した。その対策として、長年有害捕獲が行われてきた。捕獲数は長年300頭程度を推移してきたが、近年急増して、1000頭を超える年もあった。これだけ大規模な捕獲が、個体数の持続的な維持と両立するのかどうかは、早急に解明する必要がある。1991年から1994年に、海岸部のニホンザルの分布を一斉に調査する大規模な分布調査が行われた。本研究は、この20年の間に、屋久島のニホンザルの分布がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的として行った。調査はブロック分割定点調査法で1991-1994年および2013-2014年の7-9月に行った。1991-1994年は387、2013-2014年は58の定点で調査を行った。定点調査中のニホンザル集団の発見頻度を指標として比較した。調査域を、集落がなく捕獲の行われていない西部地域、集落があって捕獲が行われている北部・東部・南部の4つの地域に分けて比較すると、どちらの調査期間も、発見頻度は西部、南部、北部、東部の順であり、屋久島でどこにサルが多いのかという傾向には、20年間で変化がなかった。一方、西部と南部では1991-1994年および2013-2014年の発見頻度に有意差はなかったが、北部と東部では発見頻度が20年間で有意に減少していた。北部と東部では、1991-1994年時点での推定生息数に対する近年の捕獲数が大きく、捕獲圧が過剰にかかることによって個体数が減少したものと考えられる。