抄録
ヒトを含む霊長類において複数の遺伝子が攻撃行動や養育行動、利他行動などの個体差と関連することが報告されている(Newman et al. 2005; Krueger et al. 2012)。しかし、野生集団において、多くの個体を対象とし、個体間の社会関係を考慮しながら、性格関連候補遺伝子と社会性の個体差との関連を検討した研究は少ない。本研究では、先行研究において利他性との関連が指摘されているOxytocin receptor gene(OXTR)を候補遺伝子とし、これらの多型が毛づくろいから指標化したニホンザルの社会性の個体差に影響を与えるのかを検討した。岡山県真庭市に生息する勝山ニホンザル集団の成体メス62頭を対象とし、これらのメスが2006年から2012年に他の成体メスと行った毛づくろい交渉を用いて社会性の指標を算出した。先行研究で見いだされたOXTRの2領域の多型(SNP(e)、SNP(i1-i2))を解析した結果、SNP(e)の遺伝子型がAG、GGの個体はAAの個体に比べて、また、SNP(i1-i2)の遺伝子型がTC-CTだった個体はTT-CCだった個体に比べて、毛づくろい交渉の総量がそれぞれ多かった。しかし、両SNPにおいて、遺伝子型は毛づくろいの相手個体数に影響していなかった。つまり、OXTRの多型は、毛づくろいなどの社会的な付き合いの範囲に影響するのではなく、社会交渉を行う頻度に影響を与えていると考えられた。