霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P46
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ポスター発表
高速度ビデオを用いたチンパンジー木登り運動の分析
中野 良彦
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抄録
岡山県玉野市の林原類人猿研究センター(2013年に閉鎖)において12年間にわたり、チンパンジーの垂直木登り運動を観察し、ビデオカメラで記録した。今回は、それらの映像記録のうち、民生用デジタルカメラに付随する高速度ビデオ撮影機能を用いて記録した木登り運動の映像から、通常のビデオ映像より詳しく検討することが可能であった運動上の特性について報告する。
撮影を行ったのはチンパンジー成体4頭(オス2頭,メス2頭)で、同センターにおいて長年にわたり飼育されていた個体であった。垂直木登りを行うポールは直径15cmの木製で、各個体は飼育担当者の指示により、定期的にこのポールでの木登り運動のトレーニングを行っていた。撮影に用いた機材はカシオ、ハイスピードエクシリムEX-F1で、最高毎秒1200フレームまでの高速度ビデオ撮影が可能である。ただし、その場合には撮影範囲が非常に狭くなってしまうため、毎秒600フレームの速度で記録した。
チンパンジーの行う垂直木登り運動では、同側の上肢と下肢が同期的に動き、リリース、把持ともに上肢が先行するというパターンを示すことが知られている。また、リリース時には下肢において、足関節の底屈が大きく働く。今回の観察では、その底屈の開始よりはやく上肢の上方への運動が開始されていることが認められた。また、把持の際の上下肢の動きにおいては、上肢がしっかりと把握しているのに対し、下肢では、ポールに接触する直前に足部がわずかに下方へ動くか、あるいは足関節やや底屈するという動きを示し、下肢の把持が、鉛直方向に押し出すようにして行われていることが認められた。こうした結果から、チンパンジー垂直木登り運動の機能的特徴とヒトの直立二足歩行への進化との関係について考察する。
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© 2015 日本霊長類学会
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