多くの哺乳類の精液は射精後、凝固と液化の二相を示す。精漿の主要構成分であるセメノジェリン1,2(SEMG1,2)は精液の凝固を担うことが知られているが、霊長類においてそのアミノ酸長は多様に変化している。SEMGのアミノ酸長と凝固度、並びに、精子競争の強さには正の関係があることが先行研究において示唆されており、これまでヒトやアフリカの大型類人猿を中心に霊長類のSEMGについて調べられてきたが、小型類人猿については詳細な解析が未だなされていない。本研究ではテナガザル科4属のうち3属6種51個体{Hylobates lar(N=28)、Hylobates agilis(N=2)、Hylobates pileatus(N=6)、Symphalangus syndactylus(N=11)、Nomascus leucogenys(N=3)、Nomascus gabrillae(N=1)}についてSEMG2遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、SEMG2の長さは属レベルで異なることが分かった。Symphalangus属、Nomascus属のSEMG2はヒトや大型類人猿と同様、IIIa-IIa-IIb-Ia-Ib-Ic-Id-IIIbという8つのドメインから構成されるが、Hylobates属のSEMG2のドメイン構造はIIIa-IIa-IIb-Ia-Ib-Id-IIIbとなり、ドメインIcが欠失していることが確認された。配列中にストップコドン、及び、フレームシフト変異は見られず、属内あるいは種内におけるSEMG2の長さの多型も見られなかった。また、属間で塩基多様度を比較すると、ゲノム中の他部位に関する先行研究同様にHylobates属がSymphalangus属、Nomascus属の2属に比べ有意に大きな値を示した。