霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: A01
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口頭発表
妨害刺激の再生タイミングがチンパンジー(Pan troglodytes)の音源定位能力に与える影響
*瀧山 拓哉服部 裕子友永 雅己
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抄録

ヒトに限らず多くの霊長類種で音声を用いたコミュニケーションが行われている。一般に,自然界には同時に多数の音源が存在しており,音声コミュニケーションを行う際にはシグナルの発信者が可視範囲にいるとは限らない。そのため,音声コミュニケーションによって頻繁に情報を交換する種にとっては,妨害刺激を含む音環境の中で他者が発する音からその位置を定位する能力は非常に重要であると考えられる。一方で,これまでの霊長類の音声研究のうちのほとんどは,発声のメカニズムや言語の起源に焦点があてられており,聴覚的音源定位といった基本的な聴覚の感受性についての研究はほとんど行われていない。そこで,本研究では,チンパンジーを対象に環境音が存在する場合の他個体の音声に対する音源定位能力について実験的に検討した。まず,2方向のうちどちらか一方から個体の音声が提示されると,同じ方向にあるボタンを押す事を訓練した。その後,他個体の音声刺激に先行して様々なタイミング(500ミリ秒,1500ミリ秒,2500ミリ秒)に妨害刺激として別方向から環境音を再生することが,音源定位にどのように影響を与えるのかを調べた。その結果,チンパンジーでは妨害刺激と他個体の音声刺激を500ミリ秒間隔で提示したときは音源定位の正答率が低下するが,1500ミリ秒,2500ミリ秒間隔の時は低下しないということが明らかになった。この結果はチンパンジーにとって,ほとんど同時に再生された音に対しては,注意が分散してしまうため,音源定位が難しくなるということを示唆している。これまでの先行研究から,ヒトはそうした短い時間間隔で妨害刺激が提示されても,音源定位能力に対する影響は受けないことが知られている。会話を行う人数が増加すればするほど,音源定位を行う重要性も増加する。従って,チンパンジーの聴覚的注意能力は,大人数での会話を頻繁に行うことができるヒトよりも環境音の影響を受けやすいのかもしれない。

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© 2017 日本霊長類学会
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