東京電力福島第一原子力発電所事故により福島県内に生息する野生ニホンザルも被災した。我々は,2013年以降福島県内を中心に約400頭の野生ニホンザルから臓器や筋肉,血液などのサンプリングを行った。本研究では,野生ニホンザルの放射性核種の体内分布を明らかにし,その濃度の経年変化を解析することを目的に,これまでに採取した野生ニホンザルの各臓器,筋肉や血液中の放射性核種濃度の測定を行った。福島県においてニホンザル保護管理計画に基づいて捕殺された野生ニホンザルから骨格筋,各臓器,抹消血等を採取した。これら試料はゲルマニウム半導体検出器もしくはガンマカウンターを用いて放射性核種の同定と濃度測定を行った。試料採取を2013年度以降に開始したため,ニホンザル各組織中で検出された福島原発事故由来放射性核種はCs-137とCs-134のみであった。各組織中Cs-137濃度について骨格筋中Cs-137濃度との相関解析を行った結果,各組織中Cs-137濃度と骨格筋中Cs-137濃度は顕著な正の相関を示した。組織ごとの相対Cs-137濃度を計算すると,骨格筋のCs-137濃度が他の組織に比べて高く,筋肉以外では顎下腺,精巣,腎臓のCs-137濃度が高かった。捕獲地ごとの体内放射性セシウム濃度の推移では時間経過による緩やかな低下傾向がみられたが,2016年に浪江町で捕獲された複数の個体において,骨格筋中Cs-137濃度が10,000Bq/kgを超えた。ERICA Assessment Toolによる被ばく線量評価では,これらの個体では未だに放射性セシウム由来の高い線量の被ばくが予想されることから,原発周辺地域の野生ニホンザルの放射線影響を明らかにするために,今後も長期的な調査が必要である。