霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: A12
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口頭発表
霊長類の進化過程における嗅覚受容体遺伝子の消失:形態および食性との関連性
*新村 芳人松井 淳東原 和成
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抄録

環境中の匂い分子は嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)により検出される。OR遺伝子は哺乳類で最大の遺伝子ファミリーを形成している。マウスやイヌなど多くの哺乳類は約千個ものOR機能遺伝子をもつが,ヒトを含む高等霊長類ではその数は300~400個であり,他の多くの哺乳類より少ない。このことは,霊長目が視覚型の動物であり,嗅覚が退化してしまったことを反映していると考えられる。しかし,霊長目は,視覚環境の異なる昼行性・夜行性の種を含み,色覚系や鼻の解剖学的構造も多様であることから,嗅覚系の退化を引き起こした主要な要因が何かは明らかになっていない。本研究では,生態的・系統的に多様な24種の霊長目およびヒヨケザル,ツパイの全ゲノム配列からOR遺伝子を同定し,比較解析を行った。その結果,曲鼻猿類は直鼻猿類の2倍程度のOR機能遺伝子数をもつことが明らかになった。夜行性の種は,昼行性の近縁種に比べてOR遺伝子数が多い傾向があったが,色覚系の違いはOR遺伝子数にはほとんど影響していなかった。また,OR機能遺伝子数は,嗅球の相対的な大きさに有意な相関を示した。次に,霊長目の進化過程における各枝において,OR遺伝子の消失速度を推定した。その結果,(1) 直鼻猿類の共通祖先,(2) コロブス類の共通祖先,および(3) ホミノイドの各系統においてOR遺伝子消失速度の大幅な上昇が見出された。直鼻猿類の祖先段階では中心窩の獲得による高精度の視覚系の発達が起き,コロブス類の共通祖先においては果実食から葉食へと食性が変化したことから,これらの要因とOR遺伝子の大規模な消失との関連性が示唆された。本研究は,霊長類の進化過程でOR遺伝子の大規模な欠失は何度も独立に起きたことを示しており,それぞれの種が現在もっているOR遺伝子レパートリーは,形態および生態との複雑な相互作用によって形成されたと考えられる。

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© 2017 日本霊長類学会
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