霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: B08
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口頭発表
野生ボルネオ・オランウータンの尿中C-peptide濃度と繁殖および果実生産量の関係
*久世 濃子金森 朝子山崎 彩夏田島 知之MENDONÇA RenataMALIM Peter T.BERNARD Henry木下 こづえ
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抄録

オランウータンは2種3亜種に分類されているが,ボルネオ島北部から東部に生息する亜種Pongo pygmaeus morioは,他種に比べて雌の脳容量が小さい,という報告がある。P. p. morioの生息地は,果実生産量の変動が激しく,果実生産量が少ない期間が長いために,妊娠・授乳によって栄養的な負荷が特に高い雌で,消費エネルギーが大きい脳を小さくする方向に進化した,という仮説が呈示されている(Taylor & van Schaik 2007)。そこで本研究では,繁殖(妊娠・授乳)によるエネルギー的負荷が,雌の栄養状態にどのように影響を与えているのか明らかにするために,未成熟個体や雄の栄養状態を調べ,雌と比較した。ボルネオ島マレーシア領サバ州のダナムバレイ森林保護区内のダナム川の両岸2 km2の一次林を調査地とし,2005年3月から2014年12月まで,毎月平均15日間,オランウータンを探索及び追跡し,尿サンプルを採取した。栄養状態を推定するために,尿中のインスリン分泌能指標物質(C‐Peptide)について,エンザイムイムノアッセイ法を用いて測定した。その結果,フランジ雄(平均10.5 pmol/Crmg,N=20)や未成熟個体(平均22.8 pmol/Crmg,N=25)に比べて,授乳中(平均6.5 pmol/Crmg,N=39)や妊娠中(平均3.8 pmol/Crmg,N=11)の雌では濃度が低い,という結果が得られた。また発情している可能性があった非授乳中の雌では1サンプルしか測定できなかったが,C-Peptide濃度は最も高い値だった(777.9 pmol/Crmg)。C-Peptideは個体の栄養状態を反映し,栄養状態が良いと高値となる。したがって妊娠や授乳は,雌に栄養的負荷をかけていることが確かめられた。発表では,月毎の果実生産量の変動との関連や,他の調査地との比較を踏まえて,果実生産量が,異なる性や年齢区分,繁殖状態の個体に与える影響について考察する。

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© 2017 日本霊長類学会
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