霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: B10
会議情報

口頭発表
上野動物園で飼育されているニホンザルの抱擁行動
突田 貴美子吉成 明紘青木 孝平*下岡 ゆき子
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ニホンザルの抱擁行動は,金華山,屋久島,下北半島などで観察されている。抱擁行動には,抱擁の仕方や,揺さぶりの大小に地域差があることが知られているが,主にオトナメス間で行われる点が共通している。また,直前には接近や毛づくろいの中断など,緊張感を伴う場面が多いこと,直後には,多くの場合,毛づくろいに移行することが知られている。上野動物園のエンクロージャーで飼育されている,下北半島出身の1群37頭を対象に,2016年5月~2017年1月の43日間,計198時間の直接観察を行ったところ,抱擁行動154例を観察することができた。抱擁行動を行った個体の組み合わせは,オトナメスーワカモノメス間が最も多く,次いでオトナメス同士が多かった。抱擁行動の直前に行われた行動は,当事者同士の抱擁:52例(34%),当事者同士のマウント:42例(27%),接近:21例(14%)であり,また,抱擁行動の直後の行動も,抱擁:103例(67%),毛づくろい:35例(23%)といずれも他地域とは異なる文脈で行われていることが明らかとなった。飼育下では,毛づくろいの役割を交代しながら長時間にわたって毛づくろいをすることが珍しく,毛づくろいの交代がうまくいかなくてもそれを修復しようとしない,というように,生息環境の違いに基づいた,生活の中で生じる文脈の違いが大きいことと関連していると考えられた。また,上野動物園では,抱擁行動の生起頻度が観察期間全体では0.78回/h,交尾期に限定すると1.94回/hと他地域(金華山:0.48回/h; 屋久島:0.16回/h)に比べてかなり高かった。上野動物園では繁殖抑制のために2年前から交尾期にオトナオスを隔離しているため,全オトナメスが発情可能だが,妊娠することがない。そのために生じるストレスを抱擁行動で解消している可能性が考えられた。また,オトナメス同士がマウントし,口周りをすり合わせる不思議な行動も67回観察されたので,これについても報告する。

著者関連情報
© 2017 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top