霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A09
会議情報

口頭発表
ワンバの野生ボノボにおける,集団内・集団間攻撃交渉パターンの比較
*徳山 奈帆子坂巻 哲也古市 剛史
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

安定した集団を作る動物において,集団形成とは限りある資源(食物,繁殖相手など)を防衛するための手段であり,集団間は多くの場合敵対的である。その傾向はボノボと近縁のチンパンジーで顕著で,集団の出会いは常に敵対的で,他集団の個体を殺害することさえある。しかしボノボでは,集団が出会うと数時間から数日もの間混ざり合って過ごすことがある。その間,攻撃,毛づくろい,遊び,交尾など,集団内で行われる社会的交渉のすべてが異なる集団の個体同士でも行われる。本研究では集団内・集団間の攻撃交渉パターンを比較することで,ボノボの集団への帰属意識や集団間関係を考える。コンゴ民主共和国・ワンバにおいて,野生ボノボPE集団を1889時間追跡し,集団内・集団間の攻撃交渉を記録した。PE集団は近隣の3集団(E1,PW,BI集団)と出会い,815回の集団内攻撃交渉と292回の集団間攻撃交渉が記録された。集団が出会っている間,集団内の攻撃交渉の頻度は自集団だけでいるときよりも低かった。オスはメスよりも他集団個体に対して攻撃的にふるまう頻度が高かった。高順位のオスは低順位のオスよりも他集団個体に対し攻撃的だった。オスが関係しないメス同士の攻撃交渉は,集団内でも集団間でも非常に頻度が低かった。2個体以上で協力して同じ対象を攻撃する行動(連合攻撃行動)の頻度は,自集団個体を攻撃するときよりも,他集団個体を攻撃するときの方が高かった。特にオス同士は,他集団個体を攻撃するときに,自集団個体を攻撃するときの6.7倍もの頻度で連合を組んだ。一方メスは,他集団メスと協力してオスを攻撃することもあった。自集団に対する寛容性が高まり,協力して他集団に対抗することから,オスにおいては集団間にある程度の競合関係があることが示された。対してメスにおいては集団間でも寛容/協力的な関係があった。ボノボの集団間の融和状態は,集団内で主導権を握るメスの行動によりもたらされているのだろう。

著者関連情報
© 2018 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top