霊長類研究 Supplement
第34回日本霊長類学会大会
セッションID: A08
会議情報

口頭発表
タイ王国に生息する野生ベニガオザルのオスの交尾戦略と繁殖成功
*豊田 有川本 芳松平 一成濱田 穣古市 剛史Suchinda MALAIVIJITNOND丸橋 珠樹
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ベニガオザルはアジアに広く生息するマカク属の1種であり,個体間の社会的順位関係が比較的緩やかな平等的社会をもつ種としてよく知られている。また,雌雄ともに種特異的な形態の生殖器を持ち,性行動様式や社会交渉においても他種では報告がない行動が多いなど,その独自性は際立っている。一方で,これまでベニガオザルを野外で研究した例は非常に少ないため,その生態はいまだに解明されていない点が多い。本発表では,タイ王国に生息する野生のベニガオザルを対象に実施した長期野外研究の成果から,オスの交尾戦略と繁殖成功に焦点を絞り報告する。2015年9月から2017年6月まで,タイ王国カオクラプックカオタオモー保護区にて,この地域に生息する5群(Ting群,Nadam群,Third群,Fourth群,Wngklm群),約400頭の野生ベニガオザルを追跡し,観察できた交尾をすべて記録した。行動観察の結果,オアルファオスの交尾占有率,交尾機会を共有する連合関係の有無など,オスの交尾戦略には群れ間で明瞭な違いが認められた。5つの群れのうち,Ting群には明瞭なアルファオスが存在せず,6頭前後のオスが連合を形成し,群内で起きる交尾の9割以上を占有していた。また,Nadam群とFourth群では,アルファオスとオトナオス1-2頭が連合関係を形成し,9割以上の交尾を占有していた。こうした連合を組むオス同士では,同じメスを共同で囲い込み,交互に交尾をおこなう交尾機会の共有が観察される。一方で,Third群とWngklm群では,アルファオスは連合を組まず,単独で交尾の8割以上を独占していた。本発表では,こうした交尾戦略の詳細に加え,マイクロサテライトDNA10座位の分析結果から判定した父子関係と,群れごとのオス間関係の差異を生み出す要因を血縁構造から分析した予備結果を合わせて報告する。

著者関連情報
© 2018 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top